2022年4月01日(金) | by 柏陵ウェブ編集部 コメントする

 

 柏原町柏原の石田本通りの書店「谷書店」が4月1日をもって、半世紀以上の歴史に幕を下ろす。近隣から惜しむ声が届いてくるが、店主の谷隆三さん(76)は年齢的なことや後継者もいないため、閉店を決めた。「長年にわたり皆様のご厚情に支えられながら営業してきたが、年には勝てない。柏原の通りの中の唯一の書店だっただけに残念だが、これまでやってこられたことに感謝したい」と話している。
 谷家は江戸時代、旅館を営んでいた時期があったようで、測量家の伊能忠敬が青垣に向かう途中に宿泊したことが丹波史懇話会発行の「丹波史」に記載されている。
 1912年(明治45)、旧制柏原中学校の教科書の取り扱いを始めたが、一般書は置いていなかったという。
 谷さんの祖母、母は薬剤師。「薬局を経営する傍ら、本を店の片隅で売っていたようです。大正11年生まれの叔父の読書感想文に、『本は梅田や古本屋で買った』との記述があるので、当時、本屋を家業の一つとしながらも、よそで買わなくてはいけないほど取り扱いが少なかったようです」と笑う。
 谷さんが柏原高校を卒業した64年は、東京五輪の開催(10月)に向け、日本中が沸き立っていた時代。「とにかく東京へ行きたい」と上京し、4年間ほど東京の書店に勤めた。
 帰郷した時、家業はまだ、薬局と書店の二足のわらじ状態だったが、保健所の指導が入り、書店一本でやっていくことにした。
 71年、現在の店構えに改装。時代は折しも高度経済成長期で、「今ほど娯楽が多様化していなかったため、とにかくよく売れた」と懐かしむ。
 谷さんが腰の手術をした94年から妻、淑子さんが手伝い始め、夫婦二人三脚で切り盛りしてきた。
 やがてインターネットが普及しはじめ、本をネットで購入する人が増え、さらには電子書籍も現れるなど、大型書店ですら売り上げが低迷する時代に入った。それでも、近くに柏原病院や日本赤十字病院があり、通院ついでに来店する人も多くいたが、丹波医療センターが開設されて以降、人の流れが大きく変わった。
 「短期間のうちにここまで時代が変化するとは思ってもみなかった」という。
 “まちの本屋さん”として住民から親しまれ、時代を駆け抜けてきた50年。「これも時代の流れ。しばらくはゆっくりしますよ」とほほ笑んだ。

(丹波新聞)

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